ベートーヴェンが鳴り響いた。
ブラジリアンローズウッドの背の高い板張りは
どんな音をも見事に響かせて
素晴しいコンサートホール。
大かたの人は この事を見落としている
    グレーのカーペットに深紅の薔薇を撒き散らして
    映画のようにして出て行こう
          深い想いと熱い心のままに

悲しむことはないのだ。
この館の作者は疾うの昔に逃げ出したのだから
紙の作品を傷めるコンクリートを諦めて
通風のよい檜造りの邸宅に 夢を馳せたのだから
       グレーの絨毯に深紅のバラを撒き散らして
       最高の歴史物語のように 虚白庵から出かけよう
            厖大な苦労と出費に 漸く幕が下りるのだから

傍観者の利己主義で踏み込んだ人たちは
必ずしっぺ返しを受けて 物笑いにされる。
この館に眠る魂によって 裁かれるのだ。
    エッセー「めし」における哲学的思惟は空腹のときにわかる
    「めし」を食べないときに「めし」は理解される
     これもまたイロニー
        グレーのカーペットに深紅の薔薇を撒き散らして
        颯爽と その精神を引き継ごう
                さあ涙を笑顔にかえて

        グレーの絨毯に跪いて
        心からの深い祈りを捧げよう
              天国にいるあなたを想って





         

 

グレーのカーペットに深紅の薔薇を撒き散らして
今こそ 虚白庵から飛び立とう
そっと一輪 長い間の感謝を込めて そして新しい出発を祝して
   ひと際赤いバラをあなたの胸に飾ることを忘れないで

グレーの絨毯に深紅の薔薇を撒き散らして
さあ 虚白庵を飛び立とう
         その魂が 天空に翔る前に

虚白庵に捧げるバラード

2009年 初秋